【米ドル】
7月は、80円台前半の高値から78円水準まで一方的にじりじりと下がる展開でした。
月初は、前月末のEU首脳会議がぎりぎりのところで部分合意できた好材料や、中国や豪州の経済指標が強いことを背景にして積極的にリスクに挑戦する姿勢(Risk-On)から、リスク避難先である円が売られて、ドル円は80円台前半まで強含みました。
しかし、その後は、下記を材料として、一方的にじりじりと下がり、一時は77.94の安値をつけ、78円台の低いところで月末を超えています。
1. 景気先行きへの不安が解消されず、再び円など安全通貨が買われた。
欧州中央銀行(ECB)や中国人民銀行が政策金利などを引き下げ、イングランド銀行も量的緩和を再開するなど各国が金融緩和に動いているが、景気への効果が見られず、相変わらず先行き不安が市場を覆ってる。
2. 米FRBの追加金融緩和策への期待で米ドルが売られた。
QE3は見送られたが、雇用統計では非農業部門雇用者数変化は、3ヶ月連続して、目途の10万人を割り込むなど、追加緩和が打ち出されるとの期待が強い。実際、バーナンキ議長の議会証言では、QE3、既に14年末まで延長している低金利政策の再延長などの緩和選択肢に言及している。
3. 日銀の7月の金融政策決定会合では追加緩和策が見送られた。
共通担保資金供給オペを5兆円減額して代わりに短期国債買入額を5兆円増額するという単なる振り替えだけが打ち出され、追加緩和に踏み切らなかった。
4. スペインの複数州が支援要請するなど、欧州経済への不安も根強い。
【ユーロ】
7月は、1.26台から一旦1.20水準まで下げ、月末にかけて少し戻す展開でした。
大きな流で見たユーロドルは、2010年半ばの1.20水準から、2011年春の1.50近い水準まで上げた後、欧州経済不安を材料にじりじりと下げ続けました。7月はその尻尾のところにあたり、2010年から今までの間に、1.50を頂上とする二等辺三角形の山を描いた格好になっています。
7月はじめの高値を支えたのは、6月末のEU首脳会議がぎりぎりのところで合意したことで、スペインやイタリアの国債利回りが危険水域を脱して低下したことです。1.26台後半まで値を伸ばしました。しかし、1.27の壁は厚く、その後下旬にかけては下記を材料にじりじりと1.20近い水準まで下げました。
1. 欧州中央銀行(ECB)が政策金利を0.25%下げ、過去最低水準の0.75%にした。
金利を下げる行為は、一般的には金利裁定取引を促し、その通貨は売られるが、ユーロ圏の場合は、景気対策としてその効果が顕れればユーロの信頼回復につながるとみることもできる。しかし、この時期、スペインやイタリアの国債利回りは再び上昇しており、どうやら不安が先行している。
2. 下旬、スペインのバレンシア州などが中欧政府に支援を要請した。
これにより、スペイン経済への不安が拡大し、国債利回りも7.6%台とユーロ導入以来最高水準にまで上昇した。
3. EU筋の見解として、「ギリシャは債務削減目標を達成できない見通しで、追加の債務再編が必要になる」と伝わった。
下旬には、ドラギECB総裁が「ECBはユーロのためにあらゆる行動を取る用意がある」と発言して下げに歯止めがかかり、結局1.23台で月を超えました。
【今後の短期~長期予想】
ドル円 ・・・・・
短期では、ドルも円もリスク回避先通貨として評価されているので、ユーロ経済の不安や新興国に波及しはじめた景気後退への反応がリスクオンになるかリスクオフになるかの方向感だけでは、なかなかドル対円の相場動向を見極められません。その点、日銀やFRBなど金融当局の政策スタンスには注目しておく必要があります。両者とも追加金融緩和に含みを持たせながら微妙にバランスを維持しており、日銀政策決定会合後の発言や、米FOMC後の議長の議会証言に、市場が神経質に反応するでしょう。
ただ、どちらかというと日銀の政策余地が米FRBに比べて小さく、円高への圧力として影響する可能性の方が強いのではないでしょうか。
しかし、そうは言いつつも77円台に入ってくると、円売り介入の警戒が強いこと(6月の相場はこの水準でしきりに介入が話題にのぼった)、IMM先物では円の買い越しが相応に積み上がっていることなどから、急な円高に突っ込むことはないと思います。
中期では、米国大統領選挙を控えたオバマ政権が実績をアッピールする目的で、思いきった政策を打ち出してくるかもしれないとの政治的材料も考慮したほうがいいかもしれません。緩和策なら円高に振れ、景気刺激策ならリスクオンを促して円安に振れます。
長期では、先月の考え方から変わりません。以前にも書きましたが、中長期では必ず反対取引で手じまわなければならない狭義の投機行為は材料として見ません。その点、①本邦の貿易収支、経常収支の赤字化、②円高を利用した各施策に乗った本邦企業の海外直接投資の活発化という材料は実需に基づくもので、確実な円売り材料と言えます。それに加えて、米国の低金利政策は、延長可能性がとりざたされてはいるものの、一応期限を区切ったものであり、2015年以降円安効果となって出てくるとみます。
日本の消費税は、これが通らなければ、円への信頼は一挙に損なわれる可能性があります。適度な円安は日本経済にはプラスですが、信頼が損なわれて超インフレ通貨だということになると、大変だと思います。
ユーロドル ・・・・・
短期では、債務問題や銀行の危機に対する支援に関し、それをなんとかまとめようとする南欧地域やEU首脳と支援に慎重な独などとの間の攻防を巡る、要人の発言に、市場が神経質に反応する状況が続きそうです。
これに加えて、IMM先物ユーロ売り越し持ち高が 2011年夏から相当に積み上がっていることも考慮しておくべきでしょう。これ以上売りが積み上がる余地は持ち高を手じまう余地よりかなり小さいだろうと想像がつきます。過去、ユーロドル為替レートは、このIMM先物ポジションに沿って変動していますから、上記の要人の発言に対する市場の反応は、どちらかというとユーロが回復する方向に働きやすいかもしれません。
中期では、債務危機や金融機能の劣化が、実体経済に影響し始めたことで、ファンダメンタルズを材料にしたユーロ売り圧力が強まる可能性があります。
長期では、ユーロ共同債や銀行同盟構想が打ち出されるなど、ユーロ問題を根本解決できそうな具体策が打ち出されており、支援に慎重な独などの反対などに遭いながらも少しずつではあるが議論が進んでいることを評価したいと思います。
【短期的な材料(1ヶ月前後)】
1. 日銀の追加緩和策の可能性。
2. 米FRBの追加緩和策に関する姿勢。主要経済指標とのバランスで見る。
3. 日銀の円売り介入警戒感:77円台が当面の抵抗線。
4. 米経済指標。悪いとユーロ不安のリスク回避先として円が選好され円高。
5. 南欧諸国への支援を巡るEU首脳の対応・発言など。
6. ユーロ関連好材料で、相当積み上がった、IMM先物ユーロ売持ちの巻きもどしが起こる可能性。
【中期的な材料(数ヶ月)】
1. 将来の円売り材料(日本の貿易赤字定着化、経常赤字化)を見越した投機行為横行。
2. 本邦、消費税関連法案成立の行方:中期ではデフレ長期化、実質金利上昇、円高へ。
3. ユーロ問題の債務危機や金融機能の劣化が実体経済に影響を及ぼし始めた。
4. 世界経済への影響が心配される、中国など新興国の景気動向。⇒悪ければ、リスク回避行動から円高へ。
5. 米国大統領選挙を見据え、オバマ政権が景気刺激策を打ち出す可能性。(緩和⇒円高)
6. 日本:円高対策パッケージ(日本企業の海外投資支援の為JBIC通して$資金融通(残額を円投させる)、主要銀行に持ち高日次報告義務付け)
【長期的な材料(数年)】
1. 円高、本邦企業海外移転で輸出競争力低下⇒貿易収支悪化⇒経常収支悪化⇒円安
2. 米国:2013年半ばまでとしていた超低金利(ゼロ金利)政策を、2014年末まで継続すると決めた(12年2月)。
3. 本邦、消費税関連法案成立の行方:財政破綻回避で将来の超インフレ回避と円への信頼。
4. ユーロ問題の根底である、金融と財政の政策ミスマッチを解消する、ユーロ共同債、財政統合の動き。
5. 円高利用の対外投資は、将来の対外債権を増やし、経常収支維持に貢献する⇒長期には円安遠のく。
6. 米国:「米国債務上限引上げ法案可決と引き換えに、財政赤字削減2兆ドル以上」(11年夏)は今後2年間にGDPを0.2~0.5%押し下げる影響
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