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2013年1月13日 (日)

ドラッカー「マネジメント」サブノート、第59章(全61章)

59.   多国籍企業

(1)   多国籍企業に関する誤った理解
多国籍企業の誕生は、第二次大戦後の特筆すべき社会革新である。また、大戦後の世界では、経済と国家主権の分離が際立っているが、多国籍企業はその象徴でもあり、原因と結果の両方を兼ねている。多国籍企業に関しては、以下のような誤った理解がある。

  多国籍企業はかつてない、革新的な組織であるとの理解

a.  しかし、実際には19世紀からあった、動きを復古的に映し出したものである。

b.  例 :シーメンス(1850年代)、ユニ・リーバやロイヤル・ダッチ・シェル(1920年代)

  多国籍企業はアメリカが発祥のちであるとの理解

a.  確かに1950年代のブームは米国企業主導であった。

b.  しかし、より重要なのは、欧州諸国の経済政策だった。共同市場があったにもかかわらず各国は自国企業の多国籍化に後ろ向きだったため、米国企業がこの共同市場のチャンスを掴もうとしたのだ。

  多国籍企業は大企業の専売特許だとの理解

a.  しかし、現実には企業規模の大小はまちまちである。

b.  例 :わずか従業員50人で多国籍化して成長したスイスの精密機械メーカーがある。また、小さなニッチ分野のリーダーとして特殊だか需要の多い技術を持つ企業や、リサーチ業務に特化した小ぶりな組織などの例もある。

  多国籍化の主体はメーカーだとの誤った認識

a.  最も成長が著しいのは金融業である。

b.  コンサルティング企業、会計事務所、広告代理店なども多国籍化が進んでいる。

  多国籍化の理由は、保護主義に対抗する(輸出が妨げられている為、相手国にじかに進出)ためであるとの説明も誤りである。

(2)   世界市場
世界市場の出現が、多国籍企業増加の背景。世界市場は以下のようにして出現した。

  大戦後、欧州や日本が経済復興すれば、それぞれ異なる需要パターンを示すだろうとの見方が一般的であった。

  しかし、米国ではじめに「移動性の高まり」や「情報の増加」が起こると、世界中にそれが広がった。

a.  移動性やパワー(つまり自動車)がもたらす満足に対する大きな需要が広がった。

b.  情報の増加(映画、ラジオ、テレビなどのメディア)を土台として、医療や教育需要、ささやかな贅沢へのあこがれから起こる需要が世界に広がった。

  世界に共通するこれ等の動きで、企業は世界経済の中に身を置いているという意識のもとで経営していかなくてはならなくなった。

(3)   統合役としての世界市場

  市場は、「経営資源」を「生産要素」へと変える役割を果たす。

a.  比較生産費説では、各国は生産要素のコスト面で比較優位性を持ち、各国がそれぞれ得意な物を生産すれば、資源が最適活用されるとされた(アダム・スミスはイギリスの毛織物とポルトガルのワインで説明)。

b.  つまり、この理論では各国は生産要素を統合する市場と位置付けられる。(財は国家間を移動するが、生産要素は国外には出ない)

c.   ところが、世界経済が統合の役割を果たし、生産はもはや一国に閉じた活動ではなく、生産要素が各国間を移動し、貿易によって生産要素の取引も行われている。

  「多国籍」より「超国籍」と言った方がいい。

a.  国境を越えて生産要素が移動するということは、共通の需要、価値観で結ばれた単一市場が存在するということ。

b.  だから、多国籍企業のあり方は、生産要素から解明するのではなく、需要から解き明かすべきだ。

(4)   経済と国家主権の分離

  17世紀に、「国民経済」という概念が生れ、政治主権は政治や軍事だけでなく、経済競争も繰り広げるものだと考えられるようになった。

  第二次世界大戦後は、世界経済が国民国家を足し合わせただけの状態から脱皮して、自律性を持ち始めた。

a.  自国の経済が他国から完全に独立できず、外から影響を受け、政治主権の自由まで制限される。各国は300年もの間、外からの圧力を最小限に抑えようとしてきた。

b.  経済面で世界市場が生れても、国家間は互いに独立し両者の分離が進んでいる。

  従って、多国籍企業をマネジメントするには、政治や文化の多様性をどのようにまとめあげることが焦点となる。

(5)   戦略上の課題

  全体戦略と地域別戦略の両方がもとめられる。

a.  内部の結束を保ちながら、国籍や民族に関わらず公平に扱い、多数の政治体制と良好な関係を築かなければならない。

b.  各(地域)市場を自律的事業として個別に戦略を立てるのでは成果はおぼつかないが、個別の事情を無視して全社的判断だけの戦略も困る。

  各地域(市場)に一貫性が必須である。

a.  多国籍企業の戦略は複雑化が避けられない。それだけに一貫性が求められる。

b.  実際、好調な多国籍企業は、単一市場か単一製品がどちらかである。

(6)   経営チーム

  多国籍企業は、事業戦略と同じ数だけ経営チームを設ける必要がある。(本社経営チーの他に、地域、製品ラインごとに経営チームを設ける)

  本社経営トップは子会社の経営トップを兼ねてはいけない。

(7)   故郷の必要性

a.  機会の均等を約束しない企業には優秀な若手は入社しない。

b.  従って、事業内容が何であろうと、本社、子会社、関連会社の高いポストを自国の出身者だけで固めてはいけない。

(8)   報酬制度

  下記のような問題への正解は不明なままである(いまだに成功例を見出せない)。

a.  地位が同じなら、国に関わらず同水準の報酬をしはらうべきか

b.  本社から子会社へ派遣された場合、現地の水準に沿った報酬額にすべきか

(9)   多国籍企業と外部環境

  多国籍企業には、進出先と母国の両方から、下記のような批判にさらされる。

a.  その国の経済、社会、財政政策に無頓着で、国家主権や政府の利益を害したり、政策を左右する。

  このような批判に対しては、個別企業単位で考えても限界がある。

a.  多国籍企業は、国境にとらわれずに市場ごとに経営資源の最適化を図らなければならない。

b.  だから、いくら企業が一国の政府を脅かす力を持つはずはないといえども、その国の雇用、賃金水準、輸出入、国際収支に影響を及ぼし、経済状況や経済政策と無縁ではいられない。

  このような緊張関係に対処するためには、新しい国際法がぜひ必要である。

a.  どのような条件のもとで各国が多国籍企業を受け入れるか

b.  多国籍企業の所有権、利益の本国送金や資本金の返済、子会社間での財、人材、資本の移動の自由にどのような制限を設けるか。

c.   多国籍企業は、この国際法の範囲を超えて、本国政府の政治力を自社のために利用しようとしてはいけない。

(10) 多国籍企業と発展途上国

  多国籍企業は発展途上国に貢献しているが、同時に問題も発生させている。(両面性)

a.  貢献 :多国籍企業は発展途上国が必要としているものを提供している。 

・  資本やテクノロジー、産業・経営・企業などに関わるスキル

b.  問題 :

・  資本が流入すればするほど、それに対応して多くの外貨を使い、国際収支問題をを抱えるようになる。

・  国の独自性が損なわれるリスクにさらされる。(強大な経済力に圧倒され、それに依存したり無力感に襲われたりする)

・  優秀な人材が多国籍企業で働くことで、その本国の上司に仕え、愛国心が問われるとともに、一種の「頭脳の流出」にもつながる。

  この両面性は、アンデス条約に対する対応の違いにも見る事が出来る。

a.  アンデス条約とは、多国籍企業に対し制約をかけるもの。(参入分野の制限や親会社の出資比率制限)

b.  チリやペルーがさらに厳しい規定を求め事実上多国籍企業を締め出そうとしたのに対し、ベネズエラは署名を拒否し、コロンビアは遵守意思ないことを宣言した。

c.   チリやペルーへ進出した多国籍企業は、経営層を外国人で占めたが、コロンビアでは現地人に経営を任せ、ベネズエラでは国内の閉鎖性を打破するために多国籍企業を利用したいとの積極的理由があった。

  これを解決するため、経営層が自分の責任で発展途上国と良好な関係を築くべきだ。

a.  外貨資産を圧迫するような事業や保護を必要としている事業には参入を控える。

・  輸入代替だけを目的に進出すると、原材料や機械等の輸入を促し、逆効果

・  政府からの保護を頼りに進出し、高い関税障壁のおかげで利益を出したが、本国への利益送金が認められないケースがある

b.  資本や所有権はいずれ現地に解放したり、資本は現地の自力で出させ、多国籍企業は技術やマネジメント力、親企業の市場を提供するなどの方法で行う。

(11) 多国籍企業のこれから
多国籍企業は現在過渡期にある。政治環境とのこれからの関係については;

  進出先としては、多国籍企業に頼ったり、市は理されたりせずに、経済面で緊密な関係を築くべきだ。最終判断権を維持したままで合弁事業や技術提携を進める等新しい協力関係を切り開くべきだ。

  インフラ事業が外国企業に押さえられるという状況は長くは続かないだろう。インフラ事業は資本集約なのでインフレ脅威に弱い。また料金水準が政府に統制されているため、政治の影響を受けやすい。

  IBMのように強大な多国籍企業が市場に君臨することもこれからは許されない。

  多国籍企業の力によって現地経済が発展したら、自社と現地の双方に有益な関係が崩れた場合に備えなくてはならない。

(12) 将来のマネジメント組織
多国籍企業のマネジメント組織も今後は変容が予想される。

  多国籍企業は、現地志向と前者戦略の両方を必要とするため、これらをうまく調和させなければならない。

  子会社や関連会社を対応な位置付けにし、厳しい規律を守り、中央からの指揮命令を行いつつも、柔軟性を保って政治環境との関係に関わる問題に臨まなければならない。

  世界市場に製品やサービスを供給するためには、全社共通の経営資源をマネジメントするのに適した組織を必要とする。それは資本や知識だが、最も難しいのはマネジャーとプロフェッショナルである。これらを尊重し、現地の重要な役割を与えるべきだ。

  さまざまなマネジメントの流儀を取込み、これらをうまく活かさなければならない。日本では伝統的な昇進制度、ドイツでは技術部門を登竜門とするなどである。

  その反面、全体としてのまとまりも求められる。

  複数の経営チームを持ち、本社経営メンバーは傘下各社の経営チームにも属する。また、本社経営層をいっさいの実務責任から解放すべきだ。

  個人同士のつながりやコミュニケーションを絶やさないよう、トップによる努力、市制などが求められる。

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